タバコをやめられなくなってしまった
今週のお題「大切な人へ」
ベランダでタバコを吸いながら、日記を書こうとアプリを開いた所で「大切な人へ」という文字を見て忘れられない思い出が蘇ったので日記として記します。
私は元々タバコ否定派でした。
煙の匂いは嫌いじゃないけど、自分がタバコ臭くなるのはイヤだったし、そもそも肺癌、その他諸々のデメリットが大きすぎるから。
タバコの吸い方の違いも分からなかった。
好きだった人がいました、高校を転学して、自由な社会に出て、背伸びしたい盛りに好きだった人です。
細かな絵を描く人でした、音楽も得意で、言葉で何でも表現できてしまう
線が細いわけでは無いけど、常に周りに透明なベールを纏っている様な、繊細な雰囲気を漂わせる人でした。
今考えると、完全に信仰と執着なのですけど、盲目になっていたからか、綺麗な思い出しか残っていなかったのが救いです。
お酒を飲みに行こうと言って、安い居酒屋に行きました。緊張して、どうせ味もわからないから、どんな場所でも良かったのです。
お金もないから、古着屋で買った掘り出し物の赤いロングコート(当時の勝負服でした)を着て、メイクして、髪の毛をああでもないこうでもない、と弄り倒して、緊張の余り待ち合わせ中に何度も友人にLINEをしたり...
居酒屋でどんな話をしたかは全く思い出せないです、何せとても緊張していたので、彼の姿を目に焼き付けるのに必死でした。
一緒に写真を撮ろうと言える柄でもないし、目を見て話すことすら緊張してしまうから、ただただ、タバコを吸う右手を見つめていました。
楽器を弾いたり絵を書いたりする彼の手は、考えていたより細くはなく、少し豆があってゴツゴツしていました。
吸っているタバコもよく見る様なメーカーではなく、表に鳥のイラストが書いてある、少し不思議な匂いのするタバコでした。
「木をいぶしたような匂いがするね」と言ったら「よく分かったね、珍しいでしょ」と驚いた口調で答えてくれた事が、認められたみたいで少し嬉しかった。
それでも覚えているのは、首から下、カウンターから上の範囲の動きと断片的なやり取りの記憶だけで、もう顔どころか、声も鮮明に思い出す事ができません。
その日から何故か、私もタバコを始めてしまいました。ほんの出来心です。
次彼に会う時は、一緒にタバコを吸って、銘柄の話ももっと沢山できるようになって、大人になって、タバコの煙を挟んだら目を合わせる事も出来るかも、とか
結局、次はなかったのですけど。
体に害のある、苦いタバコの煙だけを残して
彼とは自然に連絡を取らなくなっていました。
タバコを吸ったら大人になれると、心のどこかで思っていたけどそんなこともなく、歳だけを食って、精神は子供のまま。
何かを始めたら自然に大人になれる、という考えが既にこどもなのですよね。
大人になろうと努力した人にしか、大人にはなれない、今はそう感じております。
そういえば彼のタバコ、気になって記憶だけを頼りに自販機やタバコ屋さんで今も探しているのですけど、未だにそれらしい商品を見つける事ができないでいます。
思い出を美化しすぎているのだと思います。
今そのタバコを見つけたとして、吸っても、案外普通のタバコの匂いだったりするのかもしれません。
思い出は思い出の中だけで留めておくのが良いのかもしれませんね。
夜は寒いですね、タバコを吸うのも一苦労ですが、冬の空気に混ざってほどけていく煙を見る時間が、私にとっては何よりの癒しです。
皆様も風邪などひかれませぬよう、ご自愛下さい。
また。